第1章 [旅立ちの時]


私と太郎は双子で、太郎が兄で私が妹。
生まれたときから離れた事はなくて、今も一緒。パパと3人で暮らしている。
ママは3年前、原因不明の失踪をした。警察も最初は熱心に捜査してくれてたのに、高校を出た途端、
「もう二人で大丈夫だね」って。その言葉がウチらには理解出来なかった。今日までは。

カビ臭いボロボロの布団…。
ウチらが19才を迎えた朝、目を覚ますと、そこは見知らぬ場所だった。隣には太郎が眠っている。
パパは…昨日から出張だっけか。
桃が周りを見渡すと、崩れ落ちた壁、朽ち果てた食材の様な物…。廃墟らしい。…全く知らない風景。
「た、太郎!起きて!!」
「ん…。」
桃は起きない太郎の胸座を掴んで、身体を揺らした。
「ちょ、ちょっと!起きなさいよ〜!!」
「うっせーなぁ…。」
大きなあくびをして、一呼吸。
桃と同じ様に周りを見回す。
「…きったねー部屋だなー。早く掃除しとけよ。」
起きた第一声がコレ。
太郎はクールでマイペース。桃は短気だけど、しっかり者。
「あ、あんた、何でそんなにのんきなの!?ばっかじゃない!!?よく見なさいよ!ココ、何処なのよ〜!!」
太郎の吐いた台詞に桃が怒らない筈がなかった。
「何そんな動揺してんの…?」
それでもあくまでもマイペースを貫く太郎。
「キーッ!いちいち頭にくるわね〜!」
太郎の頭をグシャグシャにして桃は立ち上がった。
散らかった、という表現を通り越して、荒れ果てたというのが相応しい情景の部屋を一度ぐるっと見回すと、床に散らばったゴミやら、物やらを一気に掴んでは隅に投げやる。
指先はあっという間に黒く汚れ、髪にも灰の様な物が積もっていた。
「ん?」
廃物の山の片隅で何かが光った。
桃は光った辺りをガサガサと探る。
「これって…。」
太郎がまだ眠そうな目をしながらも身体を起こし桃の手中を見る。
くすんでいるが、何かを模った宝飾された手鏡…。自分の顔さえ写らない程、ほこりで曇っていた。
スカートの裾で表面を拭く。
「これ、間違いないよ…。」
「まさか…。母さんのだ…ろ。」

ママが消えた事件とこの部屋が何か関係している。
はっきりとした根拠はないけど、この鏡をみつけて、私達はそう確信した。
そういえば、ママって、外国から来たんだった。
日本人なんだけど、生まれ住んでいたのは他の国。…何処だったっけ。
あれ、おかしいな。…聞いたことないかも。
何で?何で親のこと知らないんだろう。
え、待って。私達のアルバムとか…見た事ない!!
パパが何か知ってる筈。
大事な事なのに、どうして今まで気付かなかったんだろう。

「ここに居ても仕方ないんじゃねーの?」
「そ、そうだね!たまにはいいこと言うじゃん!!ここから出よう。家に帰ろう!!」
太郎の手を引っ張って、私は部屋の戸を勢いよく開けた。
部屋の外は知らない風景で、いつもの見慣れた街の景色じゃなかった。
でも、廃墟の中とは別世界の様に、外の世界は広く、美しく、
どこまでも続く道を、私達はは無我無中に駆け出した。


つづく。

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